転職を希望する後輩に、その理由を尋ねてみると、3本指の1つに入る理由が「給与が低いから」です。ところが、いざ自分が一月にどれくらいの収益を上げているか聞いてみると、なかなか答えられないのです。
そのような状況下では転職の際給料の交渉が難しいでしょう。物差しのないまま転職活動をしてしまうようなものです。
たまにこんな方がいます。「自分が働いて稼いでいる額の半分ももらえてないなんてひどい。よっぽど病院は設けている」
果たして、これは本当なのでしょうか。
今回は、回復期リハビリと訪問リハビリを例に挙げながら、私たちが発生させている収益に対して、雇用者側は私たち雇うためにどれくらいの費用がかかっているのか計算してみました。この例をしると、おのずと自分の妥当な給与が見えてくると思います。
理学療法士である私たちが発生させている収益
- 有休や欠勤は含まない
- 休憩1時間取得。業務は終業時間内に終えられるようなスケジュールで計算
- 月給は理学療法の平均年収(年/約427.9万)から計算。つまり、ここで示す月給はボーナス(賞与)込みの料金。
- 回復期病院の診療報酬は施設基準Iを参照
- 訪問リハビリについて、病院から退院してすぐの利用者の場合には、1日につき¥2000ほどの早期加算がつくがここでは割愛
例1)回復期リハビリ病院に勤める理学療法士
診療報酬を参考とした、実際に発生する収益
脳血管疾患 20分 ¥2,450
心大血管疾患 20分 ¥2,050
運動器疾患 20分 ¥1,850
呼吸器疾患 20分 ¥1,750
廃用症候群 20分 ¥1,800
上記5つの疾患の平均=9,900/5=¥1,980
1日1時間x6人みるとすると、1日あたりの収益は1,980x3x6=平均¥35,640
1ヶ月あたりの勤務日数(所定労働日数)を20日とし、さらにカンファレンスや勉強会、研修会などを考慮し1日分の収益を引いたとすると…
1ヶ月あたりの収益は(20-1)日x35,640=¥677,160
ここで、平均年収から算出した1ヶ月の月収と収益の比率を見てみると…
1ヶ月あたりの月収(PTの平均年収427.9万/12ヶ月)=¥356,583
356,583/677160=0.5265=約52%(稼いだ収益に対してスタッフに支払われる割合)
確かに、自分が稼いだ収益に対して月収は半分程度に見えますね。
例2)訪問看護ステーション(事業所)に勤める理学療法士
介護保険での訪問リハビリの提供: 40分 ¥5,840 60分 ¥8,760
医療保険での訪問リハビリの提供: 40分以上 ¥5,550
40分あたり¥5,550~5,840(平均5695)
1時間あたり¥8,760
1日40分を3人、1時間を3人とすると…
1日あたりの収益は
5,695×3+8,760×3=17,085+26,280=43,365
1ヶ月あたりの収益は(20-1)日x43,365=¥823,935
ここで、先ほど同様に平均年収から算出した月収と収益の比率を見てみると…
1ヶ月あたりの給料(PTの平均年収427.9万/12ヶ月)=¥356,583
356,583/823,935=0.4327=約43%(稼いだ収益に対してスタッフに支払われる割合)
病院よりもさらに収入の割合が少ないですね。
「やっぱり半分ももらってないじゃないか!」と怒りが湧いてくる方もいらっしゃると思います。しかし、待ってください。給与明細を見てご存じの様に、会社側はあなたを雇用するために、基本給以外にもたくさんのお金を支払っています。詳しく見ていきましょう。
病院や事業所は、本当に儲かっているのか?
さて、冒頭で「病院はよっぽど儲けている」というセリフを覚えているでしょうか。ここから、あなたを雇用するために雇用者側(病院や事業所)が1人のリハビリスタッフにかけている経費について挙げていきます。
雇用主があなたのために支払っているお金(費用)
ここから、あなたを雇用するために雇用者側にかかる経費について上げていきます。ここでの注意点は、社会保険料については、標準報酬月額に対してかかる料率が決まっています。
標準報酬月額には、基本給のほか、職務手当や職能手当、住宅手当なども含まれます。
前項まで、月収は約35万円としていましたが、それにはボーナス(賞与)が含まれているため、ここではボーナスの平均66万(「平成30年賃金構造基本統計調査」厚生労働省より)を引いた額を12ヶ月で割った料金を標準報酬月額として計算することにします。
4,279,000-660,000/12=標準報酬月額 ¥301,583(約¥300,000)
- 労災保険:標準報酬月額(¥300,000)x3%(厚生労働省 労災保険料率)=¥9,000
- 厚生年金:標準報酬額x9.15%(日本年金機構 保険料額表(令和2年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)(令和3年度)=¥27,450
- 健康保険料:標準報酬額x9.81%(協会けんぽ東京 令和4年4月~)x1/2=¥14,715
- 雇用保険料:標準報酬月額x0.65%(厚生労働省令和4年度雇用保険料率のご案内)=¥1,950
社会保険料 小計 ¥53,115
通勤手当 20,000
住宅手当 15,000
家族手当 10,000(一人を想定)
職能手当 30,000
残業手当 15,000
諸手当 小計 ¥90,000
つまり、会社に純粋に利益として残った額は…
回復期リハビリの場合
スタッフ1人が稼いだ収益-1ヶ月の給料(基本給+諸手当)+社会保険料
677,160-300,000-53,115=¥324,045
324,045/677,160=0.4785=約47%(雇用者側の純粋な利益)
訪問リハビリの場合
スタッフ1人が稼いだ収益-1ヶ月の給料(基本給+諸手当)+社会保険料
823,935-300,000-53,115=¥470,820
470,820/823,935=0.5714=約57%(雇用者側の純粋な利益)
スタッフ以外に発生する費用もたくさんあります
- 制服代
- クリーニング代
- 消耗品(マスク、グローブ、紙)
- リハビリ機器
- パソコン関連
- 設備の修繕費用
- 改築費用
- スタッフの教育費
これに加えて、収益は発生しないものの運営上必要な人件費(事務員や助手さん清掃をして下さるスタッフさんなど)、制服代やマスク、グローブ、カルテなどの消耗品費や、パソコン機器、リハビリテーション機器、設備の修繕や改築費用もあります。
パソコンやリハビリテーション機器の値段もバカになりません。トレッドミルなんて100万単位で出費が飛んでいきます。
そして、病院の患者は冬に増える傾向にあり、対して夏は少ない傾向にあります。回復期病院の例では、1日6人みるケースを想定していますが、夏は患者が少ないため、5人や4人という日も出てきます。それも毎年のように訪れます。
それでも、雇用者はスタッフに毎月同じ給与を支払わなくてはなりません。冬にスタッフの数を増やして、夏に減らすなんてこともできません。リハ職は派遣は認められていません。
訪問リハビリにも似た様なことが逆の時期に起きます。冬は怪我や病気で入院する利用者が増える事から、担当人数が減ります。そして暖かい季節になると、退院してきた利用者さんが増えることで担当人数がもとに戻ります。
とはいえ、訪問リハビリ事業所は、病院と比べると事業者側の純粋な利益率が高く、在宅という特性上、設備日やリハビリ機器などの費用は病院と比べると明らかに少なくなります。
そのため、訪問リハビリ事業所の方が給与が高い傾向にあります。
結論:リハビリ単体では病院はあまり儲かっていない。給与も妥当な水準。しかし訪問リハビリ事業所は儲かっている可能性が高い
理学療法士が提供しているサービス単体で見ると、病院はさほど儲けてないことがわかりました。しかし、病院には、入院料(例えば回復期病院でいえば、入院料1を取れていれば、入院患者1人、1日あたり2万円以上の報酬が得られる)や個室料(数万円)などでも結構報酬が得られていたりします。
とはいえ、上述の通り病院自体の設備投資や運営のための費用があるためか、比較的儲けているであろう病院でも、求人を見ると一般職の給与はどこも変わらないように見えます。
病院の給与がどこも似たりよったりに対して、訪問看護ステーションなどの事業所については年収が390〜600万と幅があります。
これは純粋な利益率も高い上に、経営上必要な費用が病院より少ないこと、そして規模も病院より少ないことから経営者側が報酬の設定を比較的自由に変えられるところにあるためと思います。
ここで、「じゃあ訪問リハビリ事業所に行けばいいのか」と感じますが、給与の高い訪問リハビリ事業所は、病院と比べると給与の変動が激しいと思った方が良いでしょう。
理由は、一見給与が高く見えるところは、基本給を低く設定し、訪問数が一定をこえれば(例えば、1日4〜7件以上とやや幅があり)インセンティブ(追加報酬)が発生する様設定しているところが多いです。
インセンティブが発生する件数が低いところほど、収入に幅があり、利用者をたくさんみればたくさん給与をもらえ、利用者が少ない時には給与が下がるという事です。
しかしながら、今のところ訪問リハビリ事業所に勤める私の周りの理学療法士は結構高い給与をもらえているそうです。(年収600万程度)
今現在、収入が低くて転職先を探している方がいらっしゃれば、ぜひ色々な求人案件を見てみてください。今までと少し違って見えるかもしれませんね。
ここまで、長々とご覧くださりありがとうございます。